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眠れぬ夜に別れを



月の無い夜だった。

ぺたぺたと、少し湿った足音がかすかに聞こえる。
それと共に、布が擦れるような音も届く。

か弱き少女が拠り所を求めてさまよう姿が容易に想像できた。



足音はやはり自室の前でぴたりとやみ、再び静寂が蘇る。


呼ばれるのを待っているのだろうか。
入ることをためらっているのだろうか。


妖はあえて声をかけず、立ち止まった小さな影を頬杖を突いて眺めた。




「・・・殺生丸さま」


か細い声が障子の隙間を潜るように入ってくる。


「・・・なんだ」


しゅるりとなめらかに障子が開き、弱々しげな顔をした少女は殺生丸と向かい合った。

そのまま黙って敷居をまたぎ、本を広げたままりんを見上げる殺生丸のそばへと腰を下ろした。

それは肩と肩が触れ合うほど近く。


「・・・寝れんのか」

「・・・うん、少し・・・」


少し、何だと問うこともせず、そのまま妖は書物へと目を戻した。



今宵は風も少ない。
従者たちも、明日の準備に精を出している頃だろうが、自室にそのようなわずらわしい音が届かぬようそことは距離を置いてある。

とても静かだった。



ことりと小さな重みが肩にかかる。
眠ったのかと思って視線を移すと、思いがけずりんと目が合った。

黒の瞳の中心に映る己が見えた。


どうしてか視線を外す気になれず、押し黙ったまま互いの瞳を見つめていた。
しかし先に視線を外したのは、見上げるようにしていたりんのほうだった。



「・・・怖かったの」


少し俯き気味に、ぽつりともらした。


「・・・夢か」


ふるふると首を振った。




「・・・すごく、静かで・・・怖かった・・・」



ああ、と殺生丸は解した。

この地に来て数日、毎晩毎晩主人が連れてきた人間に対するたわいも無い噂が絶えず、そこらじゅうから従者の潜めたような声が聞こえていた。
それに加えて、突然帰宅した大妖の気配に反応してこの辺りの小妖怪共が騒いでいた。
それに対応する護衛たちの音も耳に届いていた。
だが近頃はそれも落ち着いてきて、穏やかな夜が増えてきた。
しかも今日はしきりとりんの世話を焼く邪見を愚弟のもとへ遣いに出してしまった。
ゆえに、寂しかったのだろうか。

だがそれならば、我ら妖怪と共に歩み始めるまで一人で過ごした夜はどれほどのものだったのだろう。
それはあまりに遠くて、想像にも及ばぬほどであるけれど。





「好きなだけ居ればよい」



そう告げて、殺生丸は再び書物を眺めた。

りんはすこし顔を上げて美麗な横顔を眺め、再び頭をその肩、というより腕に預けた。




風は無いのに、そよぐような温もりが通り抜けてゆく。
りんは目を閉じた。





これをしあわせとよぶのかな






それはゆっくりゆっくりと少女を、そして白い妖を眠りへといざなうのであった。

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はじめまして^^ 
殺りんをこよなく愛する大学生です!
こんな素敵な殺りん小説を書けるなんてあなた様は私にとって神様です★(笑)

お返事よければ待ってます!!

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