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触れてはいけない



「お願い!殺生丸さま・・・」

滑らかで上品な藺草の香りが立ち上る畳の上で、りんは改まって足を折り、座った。
その前には、明らかに不機嫌な大妖。


「・・・」

「すぐに帰るから!夕刻には帰るし、阿吽と一緒に行くし・・・」


むっつりと黙りこくった殺生丸は、達磨のように口を利かない。
そろそろりんの足もしびれてきた。
むずむずとする。

 

「殺生丸さま・・・お願い・・・かごめさまの村に行かせて・・・?」

しびれた足を半ば崩すようにして、大妖を見上げた。

 


りんにとっては、真に真摯な願いだ。
だが、殺生丸はその姿を見て目を逸らさざるを得ない。
着物の裾から見える細い足首さえ―――欲情する。

そんな己をやはり犬だなと笑うのだが。
一瞬、掴んで引きずり寄せたい衝動に駆られた。


「・・・殺生丸さま?」


まさか殺生丸が自分の足首を凝視しているとは思うまい。
一点を見つめたまま固まってしまった妖を、りんは不安げに見上げた。

 


―――あまりに猟奇的だ。


卑しい考えを振り払うように言い放った。

「好きにしろ」


途端にりんの顔に輝きが満ちる。


「ありがとう!殺生丸さま!!夕刻には帰るね!」

 

 

りんは勢いよく立ち上がった。
だが血の巡りが悪くしびれた足はりんの上半身についていかない。
りんはそのまま見本のように大きな音を立ててこけた。


俊敏な娘だ。
咄嗟に手を突いて、顔面から畳にたたきつけられることはなかったものの、膝を打ったらしい。
膝を抱えて呻いている。

そそっかしいところは幼い頃から変わらないらしい。

 

「いたぁー・・・」

年頃の娘にふさわしからぬ格好で四肢を投げ出し、迷わず着物をくるくると膝丈までめくった。

膝頭はうっすらと青く、痛々しげな細い足をますますか弱くした。

 

そのふくらはぎの曲線から、見えない太腿、さらには着物の奥に秘められた部分にまで一瞬のうちに思考が走る。

殺生丸は視線を引き剥がすように遠くを見たまま、りんの脇に腕を差し込んで立たせた。


「行けるか」

「うんっ!行ってきます!」

いためた右膝を不恰好に動かしながら、りんはかごめの村へ向かうべく、竜舎へと阿吽を探しに行った。

 

 


─────
今しがたりんが去った空虚を見つめて、殺生丸は重い息をついた。


当人に自覚がないというのは、どうにも耐えられない。
先ほどのような、そのまま組み敷いてしまいたい勢いに駆られることもある。

だが、ときおりそれはりんの意識の上のことなのでは、と勘繰ってしまう。


間違いなく、堕ちているのは己のほうだった。

 

 

──────────


「かごめさまー!」


澄んだ空から響いた高い声に、洗濯をつるしていたかごめはその手を止めて上空を見上げた。

「りんちゃん!」


阿吽は髪が翻る程度の風を立てて地へと降りる。
匂いに気づいたのか、家からは犬夜叉が出てきた。


「おお来たか、りん」

 

にこやかにりんを迎えてくれたこの夫婦に、りんは花のような笑みを向けた。


「お願いしたもの・・・よかった?」

「ばっちりよ~!」


よかった、と笑うりんはますます美しくなったと、かごめも犬夜叉も認めざるを得ない。
その原因も、あらかたわかる気がした。

幼いころは毛先が跳ねてあらぬ方向を向いていた漆黒の髪も、今は重さで真っ直ぐと地へと伸び、鏡のような瑞々しい艶を放っている。
細すぎた肩は女らしく丸みを帯び、頬を赤らめてはにかむ姿にかごめさえも赤らむ始末だ。

ただ、そんなりんを村の男がほうっておくはずもない。
りんの独特ともいえる雰囲気に惹かれる者も、少なくなかった。

だが、これまでりんに言い寄ったものは一人もいない。
それはりん自身が纏う空気のせいもあるだろうが、おそらくりんが従える妖怪たちの影響だろう。
村の無邪気な子供は阿吽を可愛がり、大人しく賢い阿吽は存外人気者だ。
帰りの遅いりんを急かすように迎えに来る邪見さえ、親しまれている。
だが、村の男共はそんなりんに近づきたい想いを抱くものの、何処か一線を引いたままでいた。
しかしその一線もいつか冒されるときがくる。
そんな愛らしい娘を絶大な力で庇護するものがいるとも知らずに。

 

 

 

 

 

「これはどう?大きくて殺生丸らしいと思うけど・・・」

「う~ん・・・もうすこし小さくないと使えないかなぁ・・・」

「おい、これは?」

「犬夜叉、あんたそれ雑草じゃない・・・」

 


三人の中心に行儀よく並べられた幾多の花々。
手にとってじっと見つめ、愛しい姿と照らし合わせる。
だがどれもぴんと来なかった。

 


「あ、そういえば村のはずれの川のほうは見てこなかったわ。
りんちゃん、探しに行く?」

「うん!」

「じゃぁあたしは楓様のところに薬草を取りに行かなきゃならないし」

「おれは弥勒に力仕事を頼まれてる」

「・・・から、りんちゃんひとりで行って来てくれる?あたしも済んだらいくから」

「はいっ」

 

 

 

村のはずれの川に行くまで、何人もの人に声をかけてもらった。
近頃は殺生丸の許しを得られずなかなか村に来られなかったが、村人たちはちゃんとりんを覚えていた。
礼儀正しく明るいりんに好印象を持ってしまえば、忘れることは少ない。

元気に手を振ってくる子どもたちに手を振り返し、川まで歩いた。

 

川べりには、季節にあったさまざまな草花が咲いている。
りんはそのひとつひとつをじっくりと眺め、思い通りのものを探した。


「あ、杜若・・・は大きすぎるよね・・・、これは小さすぎるし・・・赤、って感じじゃないしなぁ・・・」

 

いろんなことを呟きながら物色していると、りんの手先に暗い影が落ちた。
はっと顔を上げると、ひとりの男がいた。
かごめたちや村の女・子ども以外に面識のないりんは、咄嗟に肩をこわばらせたが、男がたたえていた爽やかな笑顔に肩の力が抜けた。

「あの・・・何?」


それでも不審げに尋ねたりんを見下ろして、男は困ったように笑った。

「別に怪しい奴じゃないよ。・・・りん、っていうんだろ」

この村の者らしい男は、りんの引き気味な態度をものともせず傍に腰掛けた。

「楓様やかごめ様のお知り合いで、妖怪と暮らしてる」

りんは素直にうなずいた。


「たまにこの村に来るじゃないか。いつも可愛い娘だと思って見てたんだけど、なかなか声をかける機会がなくてさ。だから今日は話せて嬉しいよ」


照れもせず真っ直ぐな言葉に慣れないりんは、思わず顔を赤らめてうつむいた。

(・・・りんのことをそんなふうに言ってくれる人、初めてだ・・・殺生丸さまは絶対そんなこと言わないし・・・)

 

その男は村男らしく日に焼けていて、健康的な肌は男の実直さや素朴さを表している。
りんは花々の物色を続けながら、その男との会話を不思議なほど楽しんだ。

 

「ところで、なんでりんはこんなところで花を探してるんだ?薬草ならここよりも・・・」

「あ、ううん。薬草を探してるんじゃないの。これは殺生丸さまに・・・」

「殺生丸さま?」

「うん!強くてね、綺麗でね、すごく優しいの!今日もこの村に行ってもいいって言ってくれて・・・」

「・・・一緒に暮らしている妖怪か?」

「そうだよ?」

男は思案するように手を顎にやった。

りんは男に殺生丸についてのお決まりの紹介をしながら、考えた。
どうして殺生丸さまはりんをこの村に来させたくないんだろう・・・

 

ふと手に温もりを感じて、はっとした。
りんの手には、男の無骨な手が重ねられていた。
思わず手を引こうとしたが、それは強い力によって許されなかった。


「・・・りん、本当に幸せか・・・?妖怪なんかと一緒にいて・・・」

眉を寄せてりんを見つめる熱い瞳に正直戸惑った。
だが同時に、少し怒りに似た感情を抱いた。

何人もの人に言われたその言葉。
自分で選んだこの道を間違いだと思ったことなど一度もないし、悔いたことさえない。

強くその手を振り払い立ち上がった。


「そんなことあなたに言われたくないっ。妖怪なんかなんて言わないでっ!」


そのままかごめたちの家へ帰ろうと一歩踏み出したとき、背中に体温を感じた。
男の息が首筋にかかって、抱きしめられているのだと気づいた。

 

「・・・悪い。でも、やっぱり人は人と生きるべきだと思う・・・俺は、りんと共に生きていきたいんだ」

全身を強張らせて男を拒絶するが、離れようとはしない。

「・・・っ離して・・・!」

「ずっと、想ってたんだ・・・お前が人の世に戻れば、俺がお前を幸せにできる・・・」


ますますこめられた力に、鳥肌が立った。
殺生丸以外の男に触れられることを、全身が拒否している。

再びもがこうと試みたとき、突風がりんの髪を巻き上げた。
驚いた男の手が緩み、りんがすかさず男の腕から抜け出すと、目の前には白銀の妖がその白い振袖をはためかせて立っている。

「殺生丸、さま・・・」


迎えに来てくれたのだろうか、と淡い喜びが胸をよぎったが、金の瞳に混じった冷たいものに気づいて、見られていたのだと悟った。
よくわからない体裁を気にする自分がいた。


妖は男には目もくれず背を向けた。

「帰るぞ」

そのまま足を踏み出した殺生丸を追って、りんも慌てて歩を進める。
背後から焦りの滲んだ声が二人の足を止めた。


「っ・・・ほ、本当にお前がりんを幸せにしてやれると思うのか・・・!?りんのことを考えるのなら人のもとへ返すべきではないのか・・・!?」

 

しぶとい男の呼びかけに閉口して、りんが振り返るよりも早く、殺生丸のいつもより低い声がりんを通り越して男へと放たれた。


「すべてはりんが決めたこと。たとえりんの幸がここにあるとしても、それを選ぶのはりんだ」


言い残した言葉を置き去りにして、殺生丸はりんを抱き上げ地を離れた。
りんの眼下には、下唇を噛みしめた男が小さくなってゆく。後ろから阿吽が着いてきていた。
妖を覗き見ると、その顔はいつもより剣呑を含んでいた。
それは自分のせいだと自惚れてもいいのだろうか。
腹の奥のほうになにかがゆっくりと沈んでいくような心地よさを感じた。

はっとして、自分が今手に何も持っていないことを思い出した。
これではここまで来た意味がない。


「せっ殺生丸さま!お願い、まだ用事が済んでないの・・・!かごめさまのところに行かせて・・・?」

「・・・何をしに」

「・・・お願い、すぐだから・・・」

 

りんの懇願に耐えられなかったのか、殺生丸は無言を守ったまま弟の家へと引き返した。

 

 

 


家の中で薬草を分けていたかごめは、突然りんが大妖を連れて帰ってきたことに目をむいた。

「殺生丸!!いったいどういう・・・」

「かごめさま、あの書の中のもの・・・もらっていってもいい?」

「え?うん、いいけど・・・あれでいいの?」

「うん、本当はこれが一番いいと思ってたんだけど少し大きいかなって思って・・・でもやっぱりこれにします!」

「そう、よかったわ。・・・もう少しいるでしょう?ゆっくりしていったら?お義兄さんも」


かごめの言葉に今まで無関心を装っていた殺生丸も嫌悪を丸出しにして、かごめを一睨みし、御簾を荒々しく巻き上げて外へと出た。

「・・・殺生丸さまが待ってくれてるから」

苦笑するりんに、かごめも笑みを返した。

「そう、たいへんね、りんちゃんも」

「じゃあ・・・ありがとうかごめさま。犬夜叉さまや弥勒さまたちにも・・・」

「うん、また遊びに来て」

りんは部屋の隅に置いてあった分厚い書を開いて、中から薄い何かを取り出し、それを大事に懐へと収めた。
りんが家を出ると、外から風を巻く音が響いた。

かごめは一息ついて、あ、と思いついた。
犬夜叉、帰りが遅いと思ってたら・・・殺生丸の匂いに気づいて逃げたな・・・

 

 

 

 

 

 

森深い屋敷へと着き、殺生丸はりんを降ろすとさっさと自室へと歩を進めてしまった。

「あ、殺生丸さま待って!」


怒っているのだろうか。でも、何故?


殺生丸は足を止めたものの、振り向かない。
りんはその前に回りこんだ。
懐から先ほどかごめにもらったものを取り出す。


「はいっ」


薄く乾いた紫の花が妖の目の前に突き出された。


「・・・はなしのぶ」

「うん、あのね、このあいだ殺生丸さまに御櫛をもらったでしょう?お返ししたいなって思ってたの」


水分を失って皺を持ったその花は、それでも枯れずにまっすぐと伸びていた。


「・・・返しなど」

「いらないって言われると思ったんだけど・・・殺生丸さまよく御本読んでるでしょ?しおりになるかなあって」

 

そう言って無邪気に笑う。

花を贈ればそれで満足なのか。

私は───足らない。


この蕾はいつ開くのだろう。

焦らして

焦らして

もう、待てない─────

 

 

 

白い腕がほくほくと満足げな顔をする少女へと伸びた。

 

今、一線を越える。
 


だだっと書き上げたので意味不明かもしれませんが・・・
前サイトでキリ番を踏んでいただいたゆき様に差し上げます。
あまりご希望に添えられてないのは重々承知です><
ごめんなさい・・・;;


ちなみに、小説の内容として使えませんでしたが・・・
ハナシノブの花言葉は「あなたを待っています」

りんちゃんと一線を越える日を待ちに待っていた殺生丸を想像してこの花を選びました。
花の姿からしても、なんとなく殺生丸を連想します。

まぁまったくの妄想ですが^^;

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