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それ以外の選択肢なんてはじめからなかった



華やかに咲き誇る桜が、かぐわしい香りを運んでくる。
縁側に腰掛けてその大木を見上げた。
時折吹く強い風がその花弁を散らし、りんの白い肌を彩る。
顔にかかった横髪を掻きあげて、息をついた。
それが思ったよりも重い暗さを含んでいて、思わず口元に手をやった。


憂鬱なんかじゃない。
怖いことなんかない。


そう言い聞かせるように、ゆっくりと深呼吸した。

 


「りん」


ささやかな足音と共に、りんの視界を銀が染める。


「用意ができた」

 

りんは静かに微笑んで、縁側から腰を上げた。

 

 

 

 

 


「お気をつけて」


恭しく頭を下げる従者たちを背に、殺生丸はりんを前に乗せて阿吽に跨った。
その足元は炎と土煙を巻き上げ、阿吽は一気に空へと舞い上がった。


暖かな陽気とはいえ、上空を阿吽が最速で駆けるために受ける風はどことなく冷たい。
りんは小さく首をすくめた。

 

「寒いか」

背後から伸びて白毛が綿のようにりんを包んだ。

「ううん、大丈夫。・・・久しぶりだね、殺生丸さまとこうやって・・・」


白毛に頬を寄せると、それは愛しげにりんの頬をするりと撫でる。

 


二人の眼下には、小さな村跡が迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


背の高い草が生い茂った草むらに阿吽を置いた。

以前とはまるで違う。
人が住んでいたとは思えないほど、そこでは自然の生命が育まれていた。


「・・・結局村の人はみんな・・・」

一面の草木を前にして、りんはその遠くを見た。
かつて人家であったらしい藁葺きの屋根も、鬱蒼とした雑草で埋め尽くされている。
足の踏み場もないほど、そこは草原と化していた。

もともと大きな里からは離れた村だ。
人が来なければ、誰も再び村を再興しようとはしない。
そのまま自然に飲まれてしまったらしい。


りんは草をかき分けかき分け、ある一所を目指した。
妖はその後ろを静かに辿る。

 


「この辺だと思うんだけど・・・あ、」


りんは捲れる着物の裾を押さえながら視線の先へと駆けた。
そこには、小さな石碑がひとつ。
それは石碑ともいえないほどに小さく、ただの石が置いてあるだけのようにも見えたが、りんはただ慈愛の眼差しをそこに注いだ。
たたずむりんの横に、殺生丸は静かに立ち止まった。


「・・・これか」


「・・・うん。・・・もう身寄りがなかったから、他の人たちと一緒に一度に火葬されて・・・骨もわからなかったからりんがここにしようって・・・」


変わらない口調で語る唇は、小さな体には収まりきらないほどのものを精一杯抑えるかのように小刻みに震えた。

 

「・・・何かあれば呼べ」


殺生丸はただ背を向けると、来た道を引き返してどこかへと消えた。
素っ気無い口調にある暖かな想いを、りんはわかっている。
少し微笑んで、黙ってうなずいた。

 

 

さて、とりんはその墓前にしゃがみこみ、周辺の草をむしった。
自然と根付いた雑草は深くその根を張り巡らしていて、案外強い。
適当に取り終わった頃には、少し汗ばむほどだった。

 


手を休め、あらためてその石を眺めた。


・・・何年ぶりだろう、ここに向かい合ったのは。
あのころは毎日ここに来ていた。
人前では泣かないと決めたから、ここは泣くことを唯一許された場所だった。
そっと石の表面をこすると、ざらついたそれがしっかりとりんの手になじんだ。

 

 

 

 

 

・・・おっとう、おっかあ、にいちゃん。
ただいま。


長い間来なくてごめんなさい。
それでも、りんはおっとうたちのことを忘れたことはなかったよ。
いつも思ってたし、見守ってくれてるんだって思ってたから。

 


あの日から、とても長い年月が経ちました。
もうこの村は村じゃなくなっていて、少しびっくり。
辛いこともあったけど、やっぱりみんなで過ごした村だから、少し悲しいかも。

いろんなことが変わってしまったんだね。

 

 

りんは今、殺生丸さまのお屋敷で暮らしています。
邪見さまも、たくさんの妖怪たちも一緒に。

もし、おっかあたちが今のりんを見てがっかりするようだったらごめんなさい。
人間の世界で、人間と暮らすりんを望んでいたなら、ごめんなさい。

それでもりんは恥じることなんて何もないと思っているし、後悔もしてない。
だからみんなもそうだと思いたいの。

 

 


・・・殺生丸さまは人ではないけど、だからどうとかはりんにはわかりません。
ただ一緒にいたいって思ったら、叶ってしまいました。
だからりんは今とても幸せです。
この気持ちを教えてくれたのも殺生丸さまだから、怖くなんかないと思うの。
お屋敷でも辛いことはたくさんあったし、これからもあると思うけど、頑張れない気がしないから、きっと大丈夫。

だからおっかあたちにはずっと見てて欲しい。
りんも必ずみんなのところに行くから、そのときまで待ってて欲しい。

 

 

 


きっとこれから辛いことがあったとき、ここに来たくなると思う。
だけど、もう逃げ場は作りたくないからここにはもう来ません。
りんはりんが信じた人と、その世界で生きていきます。

それでも、ずっとみんなの家族でいさせてください。

 

 

りんは明日、殺生丸さまの元へ嫁ぎます。

 

 

おっとう、おっかあ、にいちゃん─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気づけば伏せた目元から滴る涙が足元をぬらし、下草の緑が深みを増していた。
咄嗟に口元に手を当てて嗚咽をかみ殺した。
それでも手の間、指の隙間から水滴が滴り落ちては消える。

 


りんは捨ててしまったのだろうか。

本当は秤にかけて選びたくなんかなかった。

それでも、どうしても譲れなかった─────

 

 

 

 


草を踏みしめる音がりんの耳を打った。
足音の正体に気づいて、急いで顔を拭って着物の裾を払った。
勢いよく振り返って微笑んだ・・・つもりが、濡れた顔は涙の余韻で上手く笑ってはくれなかった。

「・・・へへ・・・ごめんなさい、おそ」

 

 


白い腕がりんの頭を抱え込むようして、その顔を己の着物に押し付けた。
愛しい匂いがりんに充満する。

 

 

「・・・急ぐことではない」

 

低い韻がりんの中へ沈んでいく。
それが底まで落ちたとき、何かが胸の奥で弾けた。

 

 

 

 

己の中で慟哭し続けるりんの涙をすべて吸い取るかのように、日が傾くまで殺生丸はその体を抱いていた。



 



妃嘩瑠さまへのキリリク作品です。
「りんと殺生丸結婚式当日」ということでしたが・・・
ごめんなさい;;
まだそんな二人を書くほどにまで私は熟していませんでした。
どんなに考えても陳腐なものにしかならず・・・
結局妥協して、前日というかたちでこじつけてしまいました。
せっかくのリクエストに答えられずにごめんなさい・・・
ちなみにタイトルも長くてすいません←
このようなものですが、よろしければお受け取りください。

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