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はじまりの場所



夢追い彷徨うこの時勢。
信じられるものなど、無くて。

 

 

 

 

 

 

 

地に描くものはすべて、愛しき家族。
再び相見ることは叶わないからせめてと、少女はくすんだ地面に人を描く。

 


突如黒い影が少女の手と絵を覆った。

 

鈍痛が手から腕、右半分を駆け抜ける。
同時に左頬にも衝撃が走った。
抗うこともできずに、そのまま反対側に倒れた。


上空から矢のように降り注ぐ声は人のものだとわかるけれど、まるで異国の言葉のように脳内を通り抜けていく。


わからないから答えないのだ。
話せないから話さないのだ。

 

少女のその表情に、村人はさらに苛立ちを沸きあがらせる。

貧しさは村人の表面を粗く削った。

 

どうして、と思う。

よい絹も食べ物も無くても、人を打とうと思ったことなど一度も無いのに。
どうしてこの人たちは。

 

 

息を切らした村人は、一蹴りを最後に背を向けた。

 

ゆっくりと起き上がり、左頬に手をやった。

じわじわと鉄の味が口内に広がる。
吐き出してしまうと、同時に目からも何かがこぼれそうで、唾液と共に飲み込んだ。

 

 

立ち上がると、身体の右側がひどく痛む。
地にひっぱられているようで上手く歩けないけれど、行かなければ。

 

両足を交互に動かせば、身体は前へと進んでくれる。
それだけで十分なのだと自分に言聞かせた。

 

 

 

 

村の出口にそそり立つ古木の幹にある穴に、そっと納めてあった山からの産物。


少女はそれを抱えて深く濃い山へと急ぐ。

 


今日もきっと、受け取ってはくれない。
見てもくれない。
それでもいい。



たとえ伸ばした手を振り払われても。


銀のひとは、とてもあたたかい気がするから。
 

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