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また逢える日を夢に見



─────どれくらい長い間、眠っていただろう。
ふと、自分が右の手のひらにしかと握り締めているものに気づいた。

 

・・・帯。


思わず口元が緩んだ。

そう、あの人はきっとりんを起こさぬようにと己の帯を解いて出て行ったのね。

 

近くまで抱き寄せて、顔を埋めた。
眩しく波のように押し寄せる、熱と慕情。

それでもその帯を、かつてのように力いっぱい抱きしめることなどできはしないのだと。
乾いた手の甲が言っていた。

 

 

 

 

 

 

 


りん、と小さな妖怪が襖を遠慮がちに開いた。


「邪見さま」


ゆっくりと体を起こすと、無理はするなと気遣いの視線を送ってくる。
そんな気遣いは必要ないのにと意地を張っていられるときは、とうに過ぎてしまった。


「粥なら食べれるじゃろう?ほら、今日のは松の実が入っておる」


白い湯気がもうもうとりんの顔を濡らし、膳からは上品な香りが届いた。


ゆるりゆるりと立ち上る蒸気を見つめるりんに、邪見は慌しく顔をうかがった。

「どうした、りん。食べたくないのか。気分が悪いのかっ」


はっとして、違うのと首を振った。
それからその膳を脇にずらし、布団からそっと全身を抜いて、改まって座りなおした。
そのまま前に手を着き、額を畳まで降ろした。

邪見が小さく息を呑む。

 

「───邪見さま。今までりんをありがとうございました」

 

頭を下げて礼を述べるりんに、邪見が言葉を詰まらせてのどを鳴らす音ばかりが響いた。

 

「りんが今までここにこうしていられたのも、邪見さまのおかげです。どうか、いつまでもご清祥で・・・」


「っ・・・な、何を言うかっ、りん!ほ、ほら、さっさと食わんかっ!粥が冷めてしまうぞっ」

 

早口にまくし立てた邪見に、はいと答えて粥の椀を手に取った。
すぐに背を向けた邪見は、数刻したら下げに来るからと言い残してそそくさと部屋を出てしまった。

りんはその粥を口に運ばず、邪見が閉めた襖の切れ目を見つめていた。
うっすらと映った小さな影と共に、洟をすする音もりんの耳に届いた。

 

 


粥に匙を差込み掬うと、とろりとした白がゆっくりと落ち、かぐわしい香りをますます広げる。

覚えておこう、と思った。

 

今まで考え少なに生きてきた分、全五感を使ってこのすべてを自分に焼き写そうと。

 

 

 

 

きっともうすぐ、りんは一人で眠りに就かなければならない。
それは自然の摂理で、生れ落ちたときから決まっていた必然のことで。
覚悟はあるのだから。人として。

 

それでもやっぱり寂しいから、りんに少しの希望をください。
眠り堕ちた先に、あなたと過ごす奇蹟があるのだと思わせてください。

 

 

また逢える日を夢に見て、永遠の道へと進みます。

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