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熱を乞う


※ほんのすこーしだけ、大人め表現あり

 

冷えた指が、生温かな舌が、火照る肌を伝う。
何度も自分の名を呼ぶ声に、思わず堅く眼をつむった。
するりと頬をなでる感覚に目を開けると、珍しく上気した金の双眸が己を見つめている。
冷たいぬくもりのある口付けが落とされた。
中心が熱い。
一つになった瞬間、りんの頬を一筋の滴が流れた。

 

 

 

 

 


白くて小さい、しかし強く根付いた花を見つけた。
…持って行ってみようか。

ごめんねと呟いて、りんはその花を摘んだ。


「…殺生丸さま」

銀の大妖は憂いげに髪をかきあげて瞳だけをこちらに動かした。

「お花、奇麗でしょう?殺生丸さまみたいに白くて…」

殺生丸は花にもりんにも視線を向けることなく、再び顔をそむけた。

りんの口から発せられた言葉は行きつく場もなく、宙に漂ったまま空気に溶け込んだ。

 

いつからだろう。
殺生丸さまがりんを見てくれなくなったのは。


それだけではない。
話しかけることも、りんの話を聞いてくれているのかもわからない。
触れようと手を伸ばせば空気のようにすり抜けられる。
その理由もわからない寂しさを埋めてくれるものもなかった。


主の不自然な所作に、さすがの邪見も訝しがっていた。

 

「…お前、殺生丸さまに何かしでかしたのか?
ご機嫌を損ねさせおって」

「りん何も…してない、と思うんだけど…」

「殺生丸さまのわしを見る目までますます冷たく…」

「泣かないで、邪見さま」


鼻をすする邪見を慰めるものの、一番泣きたいのはりんだった。





 

芳しい、若菜の匂い。

あの日からこびりついた様に脳裏から離れない。


眩しくて目を細めるほどの白い肌。
自らの指を滑らすと、全身が逆立つようだった。

 

「…ねぇ、殺生丸さま」

その記憶を振り払おうと無表情にあらがっているところに、おもむろにりんが現れた。

切り株に腰かけた殺生丸から見れば、眼前にはりんの着物の合わせ目がある。
その向こうにあるはずの膨らみに目をやって、思わず生唾を飲み込んだ。

ひきはがすように視線を戻す。

りんはもぞもぞとしながら切り出した。


「あの…ご飯を、とりにいきたいんだけど…」

「行け」

「で、でも、森の中に入らなきゃいけなくて…」

「邪見を連れて行け」

「…殺生丸さまがさっき使いに出したから…」

横目に見える森は、鬱蒼と茂る木々が光を遮って、日暮れ前だというのに薄暗かった。

りんを見ることなく立ち上がった。

「早く行け」

「…あ、ありがとう殺生丸さま…!」

 

森へと駆け出すものの、本当に殺生丸が来てくれているのか心細くて、何度も振り返って確かめた。

 

 

 

 

「きのことかないかなぁ」


変に明るい声にも、返ってくるのは冷たい静寂だけ。

先ほどの邪見のつれない言葉がりんの頭を駆け巡っていた。

 

 


「まぁ、殺生丸様もお年頃じゃ。いろいろ思うところがあるのじゃて」

「…お年頃?」

「殺生丸さまが父上様の御屋敷をお継ぎになられていたら、今頃は西国の王として君臨し美しい姫君を迎え…」

「…姫君…?」

「むろん、殺生丸さまの妻として」


初めて聞いたその言葉に、殺生丸にとっての自分の存在がどれほど朧かを改めて痛感した。

 


あの日抱きすくめられた腕の中で聞いた言葉はやはりただの呟きで、実態などないもので。

その場限りの気まぐれで。

それでもあの温もりは本物で。

 

 

 

「…ねぇ邪見さま。…りんってどう見える?」

「は?なんじゃいきなり。どうって…ただのちんちくりんな人間の小娘じゃ」

やっぱり、と落胆した。

 

 

 


美しく、きらびやかで、富も名誉もある女の人と並ぶ殺生丸さまは、それはそれは綺麗だろう。

それに比べて、りんは。


 


「何を呆けている」

はっと顔をあげた。
気づけば、りんは木陰に生えたキノコを凝視したままその考えにふけっていた。

微動だにしないりんをせかすように、不機嫌な声が再び背中にかけられた。

意を決して、りんは眼下にあるきのこと、そこから少し離れた場所に自生していた黄色い小花を手折り、しかめっ面の主のもとへと走った。


いかにも煩わしげに、突然眼前に現れた娘に視線を下ろした。

「見て!殺生丸さま」

目の前に二つのものが突き出された。
思わず視線を移した。
みるからに、きのこと花である。


「えっと、殺生丸さまは森を歩いているのね」

は、と声が出そうになった。

「…何を」

「いいから!
でね、おなかすいたなぁって思ってたら、目の前にきのこが生えてるの。
…ちょっと汚いんだけど、すごくおなかがすいてたから食べようかなぁって思ってたら、向こうに見たこともないくらい綺麗なお花が咲いてるの!
だから、殺生丸さまはあのお花も欲しいなぁって思うのね。
でも殺生丸さまは手が一つしかないでしょう?
そしたら殺生丸さまはどっちを採る?」

 

面倒だとばかりに殺生丸は口を開いた。

「片手でどちらも採ればよかろう」

「それはだめ。どっちか」

すかさず断られた。


妙に饒舌なりんの言わんとしていることが、なんとなくわかる気がした。


「…お前なら」

「え?」

「お前ならどうする」


問いを返され、少し戸惑いつつも考えた。


「りんは…お花も欲しいけど…やっぱり食べ物のほうが大事かな…食べなきゃ死んじゃうかもしれないし…
りんはきのこ、かな」

 

それが生きる糧だというのなら

「…私とて同じこと」


手の中のきのこを強く握りしめた。


「…ほんと?」

「何故うそぶく必要がある」

「…きのこでいいの?」

「いいと言っている」


きのこがいいわけではないが。


りんはさらに一歩殺生丸へ踏み出した。

 

「じゃぁどうしてりんを見てくれないの?」


見下ろしたりんの唇は、小さく震えていた。

「・・・りんは・・・りんは少しでも殺生丸さまと長くいたくて・・・
あの夜も・・・
・・・もうりんがいらないのなら、そう言って・・・?」

 


遠くで鳥の鳴く音が恐ろしく響いた。
静謐さが二人を包む。


「・・・なぜ」


常より低い声にりんは顔を挙げた。
端麗な妖怪の顔には、未だ見せたことのない弱弱しさが見え隠れしていた。

 

「ならば、何故泣いた」

 


「・・・泣い・・・?」

いつのことだろうと記憶をたどった。

「あの夜、お前は私を受け入れたのだと・・・
だがお前は泣いた」


そう言う殺生丸の顔を覗き込み、思った。


―――はじめてみた、こんな苦しげな顔をするこの人を―――

 


そして思い当たった。
途端にあのときの光景と感覚が一気に溢れ出し、自然とりんの頬を染めた。

それと同時に得体の知れぬ暖かさが胸の中にほっこりと現れて、目の奥が熱くなった。

 

りんは手を伸ばし、白い塊となっていた妖の拳に指を絡めてそれを解いた。

ゆっくりとその手に頬を寄せた。

 

 

 


「りんは殺生丸さまとひとつになれて嬉しかった―――」

 

 

妖の手がりんの顔の上で小さく動いた。

 

りんはぱっと手から顔をあげ、赤らめた。

「もっ、もちろんすごく恥ずかしかったよっ。
頭の中がぐちゃぐちゃしてなんだかよくわかんなかったんだけど・・・」

 

殺生丸の手がりんの腰を引き寄せた。


「・・・けど、なんだ」


突然近づいた顔に、自分の赤面を見られたくなくて顔を背けたかったが、金の瞳から目をそらすこともできなかった。

 

「・・・え、っと・・・で、でも・・・殺生丸さまに触れられて、嬉しか」

 

続く言葉は呑み込まれ、殺生丸はうつむきがちなりんの顔を押し上げるように口付けた。

 

 

頭がぼうっと重く、腰に回された腕がなければ立っていることもままならない。
口内に侵攻してくる物に意識を奪われてしまいそうで、りんは殺生丸の襟元を握り締めた。

唇を離すと、酸素を求めてりんの口は大きく開いた。
その隙に殺生丸の唇はりんの頬から首、鎖骨へと伝う。
くすぐったくて身をすくめると、ふわりと体が浮き、あれ、と思ったときにはすでに横になっていた。


「・・・ならば」

低い声が上から降る。


「・・・ならば態度で示せ」

 

それを合図に再び至る所に口付けが落とされる。

指が首裏を伝うだけで、全身の肌が粟立った。

 

着物の襟から侵入する指先から逃れるように身をよじればよじるほど、白い肌があらわになる。

すでに闇へと吸い込まれた森の中で、りんの肌だけがやけに光っていた。

 

 

 

「・・・殺生丸さま」

「・・・」

「りんに触れられて、嬉しい・・・?」

「・・・あぁ・・・」

暗闇の中でも、妖の目にはりんの微笑がしっかりと届いた。


「・・・りんも・・・りんも嬉しい・・・」


額の髪を撫でるように唇が掠めた。


「・・・りん、きのこでよかったよ・・・」

 

「・・・もう黙れ」

 

 


─────

 

妙に爽やかな風がりんの髪を揺らした。
細く目を開けると、視界は白かった。

手触りのよいそれをしっかりと握り締めて顔を上げると、金の双眸とぴったりと目が合った。


「・・・せっ・・・しょうまるさま・・・あ、れ?・・りんどうして・・・」


「・・・お前があのまま眠ったからであろう」


あのまま・・・?

かっと顔が熱くなった。


「・・・何故赤くなる・・・?」

近づいてきた白い顔は、少し口角をあげていた。


「・・・しっ・・・知らないっ・・・!」


逃げようともがくが、すでに体はすっぽりと白毛に包まれていて、逃げようもない。
りんは諦めて、おとなしくその中に納まった。

 

 


急に妖の胸に何かがこみ上げて、むせかえるような気分だった。
りんも同じようで、堅く目を瞑りそれに耐えていた。
殺生丸の視線に気付き顔を上げ、りんはすこし頬を染めて微笑んだ。

それが、あまりに艶やかで。

 

 

りんの胸にこみあげた何かが苦しくて、おもわず目を閉ざした。
視線を感じて見上げた先には、端麗な面(おもて)があった。

それが、あまりに艶麗で。

 

引き合うように口付けた。

 


それはあまりに愛しくて───

 


 

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