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玉鬘


「櫛はね、女を写す鏡なのよ!」

いつぞやか、愚弟の連れの人間が豪語しているのを耳にした。

偶然旅の途中で出くわした時だったろうか。

りんのふんふんとうなずく姿が横目に映った。


「つまり、女の子にとって髪は宝物なのよ。大事にしなきゃいけないの」


どこからそのような呑気な話題が挙がるのか、奇怪極まりない。


「でもりんの髪…かごめさまみたいに柔らかくないし、珊瑚さまみたいにまっすぐでもないから…」

女は大きく頭(かぶり)を振った。

「見た目の質じゃないのよ!たくさん梳いてあげればどれだけでもきれいになるんだから!」

 

 


それから幾日、たまたま邪見を遣いに出して、たまたま大陸から商人が来ていて、たまたま漆の造りがあって、それゆえ今この手に赤い櫛があるわけで…

かける言葉も思いつかず、無言でりんに手渡した。

突き出されて思わず受け取ったらしいが、これが何の用をなすものなのか分かっているのであろうか。

櫛と己の間を黒目がちな丸い瞳がよく動く。


「綺麗…櫛?…りんにくれるの?」

「不要ならば邪見にでも渡せ」

「ううん…!すごく…すごくうれしい…!
ありがとう殺生丸さま!!」


表面をなでると、上品な手触りが指先を冷やす。
緑と黄の葉模様が赤色に映えていた。


櫛に見入っていてはたと気付いた時には、殺生丸はすでにはるか遠くに進んでいて、りんは慌ててそのあとを追った。

うらめしそうな邪見に笑いかけると、ふんと鼻を鳴らされた。


「…まったくりんにばかり…甘やかして…わしは…」


今日ばかりは、邪見の小言も気にならなかった。

 

 


暇さえあれば櫛を眺めた。
白く光る赤も、小さな緑と黄の模様も、見れば見るほど可愛らしく見える。
何度も邪見に見せたが、そのたびにしかめっ面をされた。

「お前見てばかりで、せっかく殺生丸さまに頂いたのに髪を梳かんのかっ。
みっともない相をしおってっ」

 

やつあたりぎみな邪見の言葉への反論を飲み込んで、そういえばと思った。

もらった櫛でまだ髪を梳いでいないのだった。


なんとなく髪を通すのを阻まれた。
櫛が汚れてしまいそうで。


そうだ、頭を洗ってから梳こう。

 

「邪見さま、頭洗ってきてもいい?」

「なっ、なんじゃいきなり。痒いのか」

「ちがうもんっ。ほら、殺生丸さまも休憩するみたいだよ」


見れば、すでに木陰に腰を下ろす者が一人。


(殺生丸さまはお前が何かと言うから待ってくださっているのだろうっ)

りんを頭から叱りつけたい衝動を殺生丸の手前抑えた。

「ね?いいでしょ?」

「し、仕様のない奴じゃ。さっさと行って来い。
川に落ちるなよ」

「はーい!」


颯爽と小川へと駆け出した。


櫛を落とさぬように古木の幹に置き、着物をたすきがけた。


指を少し水につけると、小さな痛みが指に刺さる。

少し冷たいかな。


ええいと頭を川面に突っ込んだ。

ごぼごぼと頭上で聞こえるのがおかしい。
それが自分の呼吸だと分かっているけれど。

一気に顔をあげると、肺が酸素を求めて広がる感じがした。

再び髪だけを水に浸す。

流れに任せてなびく髪を丁寧に手で梳かした。


さあさあという川の音に、どこか不快な音が混じっている。

荒い、息のような…


ざっと頭を川面から引き離して振り返ると、すでに遥か彼方へと走っていく男の姿が見える。

木の幹には、置いたはずのものが影さえない。


一瞬で事態を判断した。

 


「やだっ…!!待って!!」

濡れた髪が顔にはりつくのもかまわず、走り去る男の後を追った。

 

自分の心臓の音だけが聞こえて、顔を濡らすものが川の水なのか何なのかすらわからない。

息ができない。
足がもつれる。


そのまま地面に引き寄せられるように転んだ。

顔をあげると、男も立ち止まって振り返っていた。
卑しい、歪んだ笑みがりんを舐めるように見ている。

 

嫌な汗が背中を伝う。
もう追いつくはずもないのは分かっていた。
それでも再び膝をつき駆け出そうとした瞬間、りんの傍らを白い影が横切った。


男は一瞬にして笑みを崩し、軽く後ずさって尻もちをついた。

ぱきりと何かが鳴った。


男が見上げる先には、男とは似ても似つかない端麗な眼差しが冷たく男を見下げている。

 

「何を慌てることがある?」


殺生丸は微笑さえたたえていた。
それはさらに男の顔から血色を奪った。


こいつ…女か…?
いや、男…
なんだ、この感じ…


殺生丸の全身から滲む妖気に、男の首筋を冷や汗が伝う。

「わ…わる、かった!
返す!返すから…!」

慌てて握りしめていたものを殺生丸へと突き出した。

しかしそれはすでに原形を留めてはいなかった。


ちょうど真ん中で、それは無残にも2つになっていた。

「…あ…」

「貴様が触れたものなどに用はない…貴様にも」

瞬きよりも速く、白い腕が男の首へと伸びた。


「…く…や、やめ…」


爪が首元へ食い込み、男の顔は青白から紫へと変わった。
口端から液体が漏れる。


「…だめっ…!殺生丸さまっ…殺しちゃいや…」

腕はそのままで首だけ動かしてりんを見た。
その場にへたり込んだまま、ただ首だけを横に振っていた。


「…人が死ぬのはいや…」


小さく舌を打った。
不本意だがそのまま指を開くと、男はだらしなく地に落ちた。
はげしく咳こむと、男は殺生丸にもりんにも目をくれず不格好に走り去った。


その後姿を嫌悪の眼差しで見送り、足元の赤いものへ視線を下ろした。

寂しげに横たわったそれに一瞥をくれると、未だにうずくまったままのりんのわき腹に腕を差し込み持ち上げた。


小脇に抱えるようにして歩きだした。
りんも黙ったまま手足をぶらつかせて運ばれた。

向こうに火が爆ぜているのが見える。
邪見が火を焚いていた。


「髪を乾かせ」

焚火の前にりんをおろし、自分もそばに腰を下ろした。


邪見がせっせと世話を焼き、りんの着物をはたはたと乾かす。
りんはされるがままとなっていた。

 

「…櫛…せ、せっかく…殺生丸さまにもらったの、に…
ごめんなさい…ごめんなさ…」

「謝ることなど何もない」

「ごめんなさい…ごめんなさい…」


一点を見つめたまま繰り返すりんに視線を移し、殺生丸は軽く息をついた。

 


「…来い」

「…え…?」

「来い」

顎で殺生丸の前へと促される。

膝をついたまま移動し、殺生丸と向かい合った。


「…逆だ」

慌てて向きを変え、殺生丸に背を向けた。

 

何が起きるのかと肩を強張らせていると、何か細長いものが3本ほど、りんの頭皮をなでた。

 

それが殺生丸の指だとわかるまで少々時間を要した。


温度のない指が湿った髪を束ねては梳いていく。
指が通るたびに肩の力が抜けていった。


心地よくて目を閉じた。

 

 


「…櫛は必要ない」


その言葉に、りんも小さく頷いた。

 

分かっていたから。

今、この指が通る髪は世界で一番美しいだろうと。

 



 

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