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春遠からじ


大妖はいつもと一寸変わらず涼しい顔をしていた。
少女はどうしてそうも早く口が動くだろうと思われるほど、楽しくて仕方がないといった様子で言葉を並べる。
そして小さな妖怪は、肺の中が空っぽになってしまうのではと心配するほど、長い長い溜息を何度もこぼした。


一行は主の言葉通り、西国の屋敷へと向かっていた。
そこはかつて西国を治めた大妖怪改め殺生丸の父が根城にしていた屋敷である。

現在父は亡き者となり、母は天空の館で自由気ままに暮らしている。
主のいない館がどうなっているのか誰もわからぬところであるが、おそらく太古からの従者が帰らぬ主を待ちながら暮らしているのだろう、と殺生丸は踏んでいた。
…待ってはいない、かもしれないが。

 

屋敷が近付くにつれて、懐かしくもある匂いが濃くなることに、殺生丸の鼻腔は縮んだ。


――ここに戻ることになるとは。

特にもう戻らぬなどと考えたわけではない。
だが、果てた父を目の当たりにして、強さに限りはないのだと知った。
世で最も力を誇った父が、いとも簡単に人間のために命を投げうったのだ。
それならば、私は父上を超える。
そのためには、帰る場所などあってはならなかった。

 


「ねぇ殺生丸さま。
殺生丸さまのおうち、今はだれもいないんだよねぇ。
御母堂様もあのお城にいるし…
ついたらまずはお掃除だね!」


はあ~と、邪見はまた深い溜息を吐きだした。

「ほんっとぉ~に考えの足らんやつじゃなお前は!
殺生丸さまの御館には何百もの使用人が控えておるに来まっとるじゃろ!
今この時も館はピッカピカじゃわ!」

「あ、そっか!
邪見さまはそこに行ったことがあるの?」

邪見は古い古い記憶を引っ張りだした。

「殺生丸さまにお着きするようになってすぐのころ、二、三度伺ったことはあるがな。殺生丸様もそれ以来じゃろう」

「ふーん…」


りんはそれきり感慨深げな顔をして黙りこんだ。

りんが口を閉ざすと、突然周囲は静まり、すべての音が木々に吸い込まれてしまったかのようだ。

 


「――ここだ」

「えっ?」


終始無言でいた殺生丸の呟きに、りんは顔をあげた。


「…ここ?お屋敷が?
でも殺生丸さま、さっきから周りの景色全然変わらないよ」


りんのその言葉に反応したかのように、突然一行の視界前方は歪み、その奥には何とも大きく荘厳な門構えが現れた。


「う…わあ…」


りんは中途半端に口をあけてその奥に目を凝らした。
まだ遠くて小さく見えるが、おそらく実際はこれまでりんが目にしたもののどれよりも大きく立派だろう。

 


まーたこいつはだらしのない顔つきをしおって…


邪見はりんを見上げ、いつものごとく小言が口をつきかけたが、殺生丸が歩を進め、りんもそれに従い屋敷の結界が再び閉じようとしていたため、邪見は慌てて二人のあとを追った。

 

 

 

りんは屋敷に向かって歩きながらはしゃいでいた。
「す・・・すごいっ!
すごいすごい殺生丸さま!
りんこんな大きなお屋敷見たことないよ!」

…りんもここに住むんだね、とぽつりと呟いた。


「…不満か」

「違う!違うよ!
すっごく嬉しい!こんなところに住めるなんて…
殺生丸さまのお家だよっていわれたらやっぱりって思うけど…
りんが住んでもいいようなところじゃないよ…」

殺生丸は少し後ろをついてくるりんを、横目で確かめた。

――この娘は…いいかげんわからぬのか。


「…私がいいと言っている。
お前が気にかけることは何一つない」

りんはその端正な横顔を見上げ、いまいち納得しきらないものの、そうなのかな、と考え直して再び前を見据えた。

屋敷が近付くにつれて、庭でせわしく動く何かがりんの目についた。
一行が門をくぐると、それはつと顔をあげて、カッと目を見開いてこちらに顔を向けた。

妖怪だ。
鬼のような顔をしているが、大きさはりんほどしかない。

りんは思わず殺生丸の袂の裾を握った。

 

妖怪はわなわなと口を震わせて、食い入るようにこちらを見つめていた。

「…ぼ…坊ちゃん…」

妖怪は殺生丸ばかり見て、りんには目もくれない。

「…みっ皆のものっ…!坊ちゃんが…殺生丸さまが帰ってこられた!!」


ざわりと耳障りな音がかしこで聞こえ、屋敷からは様々な妖怪が飛び出してきた。

「殺生丸さま!!」
「殺生丸さま、よくぞお帰りで…」
「殺生丸さま、お久しゅうございます…!」


それらは一網に殺生丸を囲んだ。
しかしその波は誰かの一言で一気に身を引いた。

「にっ…人間がおるっ!」

険しい視線がりんを貫いた。

「なぜこのようなところに…」
「殺生丸さまが連れてきたのか?」
「よもやこの屋敷に足を踏み入れるのではあるまいな」
「それはない、あれは坊ちゃんの家畜だろう」


りんはそれらの視線から逃れるように、殺生丸の後ろに半身隠れた。

 


「部屋はあるか」

殺生丸の声に従者たちは再びにこやかな顔を作る。

「もちろんでございます!いつ殺生丸さまがお帰りになられてもよろしいよう、いつも磨いておりました」


殺生丸は無言で歩を進めると、さっと従者たちは道をあけ、屋敷へ促した。

りんもぴったりと殺生丸にくっつき、後に続こうとした。
しかし突然、角ばった指がりんの腕をがっちりとつかんだ。


「どこへ行く!
人間の分際で、殺生丸さまの御着物に触れるとは…お前はこっちだ!」

強い力でりんを引きずり行こうとする。

「…やっ…」


引っ張られる腕に力を込め、思わず目を固くつむった。
 


しかしその瞬間には、すでに腕は自由になっていた。

目を開いたそこには、しなやかな腕が横切っていた。
その先端の細い指はりんを掴んだ妖怪の首へと延びている。

「…ひっ…」

りんは殺生丸の着物に顔を埋めた。
腕を放された喜びより、苦痛に歪んだ妖怪の顔の恐ろしさが勝っていた。


「…せっ…せっしょ…ま…さま…」


「…今後りんに触れてみろ…殺す」


そのまま地に落とされた妖怪は激しくむせこむと、尻もちをついたまま後ずさった。

 


殺生丸はりんの肩に手を置き、かたずをのんで眺めていた妖怪たちに向き直った。

 


「…りんだ。ここに住む。
東の館はりんのものだ。
限られた者のみがりんの世話をしろ」


えっ、と顔をあげたりんにおかまいなしにそう言いきると、呆然とする従者たちとそれになじみきっている邪見を残し、りんを連れて屋敷の中に入った。

 

 

 


りんはまだ殺生丸にくっついたままだった。
もう離れようと思うのに、殺生丸が肩を抱いたまま歩いて行くので、後ろ向きに変な歩き方をした。


「せっ殺生丸さまっ…どこ行くの?」

殺生丸はそれには答えず、大きくふすまが開けた部屋に踏み入った。
そこはがらんと広く、閑散とした部屋だった。


「ここは…?」

「私の部屋だ。
ここへ来たければ、邪見か侍女に言え」


りんは殺生丸から離れて向かい合った。


「…りんは殺生丸さまといられないの…?」


「……来い」


再び歩き始めた殺生丸に、りんは不安でならない胸を抑えて付いて行った。

離れの館は殺生丸の部屋と同じほどの大きさで、同じく閑散としていたが、大きくふすまを開けるとその前には大木の桜が凛と佇んでいた。

「ここがお前の部屋だ」

りんは部屋に入り、中を見回した。
特に何もない。

しかしつと顔をあげると、強く根付いた桜の大木が目に入る。
夏を迎えた今、桜は青々としげっていた。


「…殺生丸さまのお部屋から…遠いね」


「来たければ言えと言った」


「りんも殺生丸さまといたいよ」


殺生丸は軽くため息をついた。

 


「…お前は、私と寝食を共にするというのか」


「だめ?」


懇願するように殺生丸を見上げる。


今度は殺生丸も、あからさまにため息をこぼした。

 


―――こいつ、いつまで子供のふりをするつもりだ…


殺生丸は目を細くしてりんを眺めた。


―――十分に、『娘』の匂い…

…食われてしまうとは、思わぬのか…

 

 


「…殺生丸さま?」

 

殺生丸はりんから視線を外し、大木に目をやった。

季節は、初夏――

 

「…時が来たなら」


――春はもうすぐ――


 

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