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暮れゆく空の色


何、いまの。

ぬめぬめとした赤が光る。
目が、離せない。

荒い息遣いが気味悪く響くけれど、それが自分のものだと気づいた。



なに
どうして─────












事の起こりは何気ない昼下がり。
邪見の目を盗んで、結緋は屋敷を抜け出した。

父は今日の夜長引いていた仕事から帰ってくる。
そのあいだ屋敷を守る母は、従者たちと小話をしていた。

つまらないつまらないと声を立てても、誰も構ってはくれない。
結緋が仕出かすいたずらの処理は、すでに従者もお手の物となっていた。



せっかく、今日は満月なのに。


満月の日は、なぜか無性に外へ行きたくなる。
そのうえじっとしていられない。
庭を走り回るくらいしかその気分を晴らすことを知らないけれど、もしも自由に外へ出れたなら─────

そんな気分が結緋を駆り立てて、思わず高い塀を越えてしまった。
しばらくして屋敷の中が騒然となることくらい想像がつく。
心配げな母の顔がちらついたが、外の誘惑には勝てなかった。







外に来たのはもう少し幼いとき。
母上と、父上と、それに邪見もいた。
皆でそろって何を見たのか今は思い出せない。
ただなびく髪をかきあげた母上が綺麗で、それに見とれていたのが自分だけではないことに気づいてなんだか悔しかった。

母上と父上のあいだに立ってただ何かを見ていた気がする。
母上とは手を繋いでいた。
父上はただ横にいた。
自分は顔を精一杯上げなければ母上と目を合わせられないのに、簡単に母上を眺められる父が悔しくかったのだけれど
疲れてきて眠たげな結緋を黙って抱き上げてくれたのは父上だった。





塀を越えて少し走ると、森に入っていた。
森に入ったということは、城の結界を抜けたということ。
主が居なくて妖力も手薄になっていたのだろう。

とても新鮮だった。
木々のざわめきも、庭のものとはまったく違う。
野生の荒々しい呼吸の音を肌で感じた。

森を走り川を渡りさまざまな動物を見た。
なんて楽しいの。
どうして父上たちはこんなに楽しいところへ来てはならないなんていうんだろう。


流れる汗を拭い、はだけた着物を締めなおしたとき、異変に気づいた。

静かだ。
先ほどまでささめいていた鳥のさえずりも、植物の声も聞こえない。



匂いは─────
風の匂いを感じようとしたとき、なぜか咄嗟にかがんだ。
ほとんどが本能だった。

結緋の頭上を見たことも無いほど毒々しい色の大蛇がかすめていった。


「・・・っ・・・!」



大蛇は再び向きを変え、若く純粋な生き血を求めて這ってくる。

考える間もなく結緋は走り出した。



どうして匂いに気づかなかったの。
どうしてこんなところに妖怪が。
はやく、はやく。
うちに帰らなきゃ。


匂いをたどれば帰れるはずなのに、屋敷の匂いを感じられない。
後ろを物凄い速さで追ってくる大蛇の音を拾うのに必死で、匂いを感じられなかった。





西国の王の娘が走る速さは相当なものである。
だがそれに苦もなく大蛇はついてくる。

ふと、視界を小さな白が横切った。
それと同時に大蛇の地を這う音が消えた。


───何?

思わず足を止めて振り向いた。





兎。
子兎。
だめ─────


結緋が踵を返したのと、大蛇が子兎に牙を剥いたのはほぼ同時だった。



歯切れの悪い切断の音が響いて、
腕には嫌な感触と重みがあって、
目の前には兎の頭を飲み込む大蛇。
腕の中には赤に染まったその胴体。


黄色の眼光が結緋を捕らえた。
その背後には落ちる太陽と共に昇る月───


それはそれは、とても綺麗な丸だった。












気づけば地に転がるのは、長い胴体を伸ばした蛇。
腸からは嫌な臭いと妖気が流れ出していた。
その横には先ほどの子兎の胴体。
静かに転がっていた。


視界が少しいつもより低い。
視線を落として、目を見張った。
脚が人の足ではない。
血に染まった白銀の毛に覆われていた。
手、手はどこ──?



この姿は────何?

犬、犬だ。
一度父上の本当の姿を見たことがある。

おなじ、結緋もおなじ─────




再び目の前に転がるむくろを見て、我に返った。

結緋が、したの───?



先ほど蛇に追われて走ったときよりも呼吸が、鼓動が、速い。

殺してしまった。
結緋が、殺してしまった─────


「・・・い、いやぁ───っ!!!」


悲壮な遠吠えが暮れかけた森一帯に響いた。












次に気づいたのは、水の中にいるように揺られているときだった。

「あ、起きた・・・!結緋、痛いところは無い?」

母の顔が近づいて、眉を潜めている。
己の手を顔の前までもってきた。
・・・いつもの手だ・・・

「城から出るなと言っただろう」

耳元から聞こえた低い声に、小さく肩が跳ねた。
目の前で銀の髪が揺れる。
父の腕に抱き運ばれていた。

「・・・ごめんなさい」

自分の非を認めた結緋がしおらしく謝ると、りんの細い指が頬を撫でた。







結緋の不在を知って城を抜け出したのだと悟ったりんは、すぐさま従者を連れて森へ赴こうとした。
そのときちょうど早めに帰宅した殺生丸と居合わせた。
りんが事情を説明すると、殺生丸はすでに知っていたようである。
ずいぶんとのんびりしたものだと邪見は思ったが、結緋の元へ再出発しようとする殺生丸にりんは自分も行くといって聞かなかった。
結局二人で結緋を探しに森へと出かけたのである。

森の中で見つけたのは、忌々しい大蛇の死骸と子兎の四肢、そしてその横に倒れる銀の子犬であった。
二人はわが娘を抱き上げて森を去った。




「・・・お前には私の血が濃い。
満月の日には、それがいっそう強くなる。
己で制御できぬうちは・・・」

「・・・犬になっちゃうの?」

結緋は殺生丸の肩の着物を握り締めた。

「・・・本来の姿だ。私にとっても、お前にとっても」

その白の着物に、結緋は顔を押し付けた。

「・・・こわかった。
・・・爪が、気持ちいいくらいよく斬れて・・・」

「じきに慣れる」


殺生丸は歩みを止めた。
その横にりんも立ち止まる。




小高い丘の上。
朱色の夕日が三人を赤く染める。

どこか見覚えがある。

あぁそうだ。昔三人で来たことがあった───


柔らかな風が三人の髪を掬い、銀と黒の髪が風に踊った。
りんはいつものように自分のそれをかきあげた。


やっぱり今でも母上は綺麗─────


思い出したように父の顔を覗くと、殺生丸もまた目を細めて眩しそうにりんを見ている。
銀の髪で目を隠してやろうか。
そんなことを思ったが、今日はやめた。


朱く染まった銀の髪が結緋の頬を撫でる。
母を見つめる父上の姿も、この上なく美しかった。









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