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無色透明な世界を歩む


 

白と赤と黒が風に舞う。
たなびくその袖を包むようにゆったりと彷徨う、幾すじもの蒼い妖怪。

 

まだものの美醜もわからぬ年端の少女が見ても、その姿はとても美しかった。

 

 

 

 

 

 

 

女は一人の少女の前に、ためらうことなく膝を着く。
りんはただその真っ直ぐな黒の瞳に映る自分を見つめた。


「・・・怖くは、ないか?」


女は、りんの土で汚れた頬を拭った。
りんの肩は小さく跳ねる。


────あまりに冷たい。

 


りんの素直な反応に、女は思い出したかのように苦笑した。

「──ごめんね」


りんは急いで首を振った。
何を違うのか分からないけれど。

 


「・・・あのっ・・・巫女様は、どうして・・・」


「・・・お前は人でないものと共にいるのだろう──?」


女の真っ直ぐな視線がりんをつかまえた。
すぐに脳裏に浮かんだ、銀の妖を言っているのだとわかった。
この後に続く言葉は、いつだって決まっている。

 

 


妖怪となど生きるべきではない。
戻れ、人の世に。

 

 

 


しかし女は不安げにうなずくりんの頭を掠めるように撫でるだけで、聞きなれた言葉は口にしなかった。


「・・・お前が選んだならそれでよい」

 

女が立ち上がると共に、広い袖がりんの頬に触れた。
そして思い出した。
この赤は─────

 

 

「・・・巫女様、もしかして犬夜叉さまの村の・・・」


女は少し止まり、すぐに微笑んだ。


あまりに脆い笑顔だった。

 

 

 


「妖と人は相容れぬけれど───痛みを分かつことはできる。
だが、生者と死人が想い交わることはできない─────」

 

 

強く生きろ、と言い残して、女は再び深い森の奥へと溶けていった。

 

 

 

 

 

どういう意味だろう。
「妖」と「人」の意味は分かるけれど、「痛みを分かつ」とはなんだろう。
「生者」と「死人」の意味は分かるけれど、「想い交わる」とは。


かごめさまに似ている人だったなぁとぼんやり考えていると、すぐに殺生丸さまと邪見さまが帰ってきた。

 

 

 

 

 

殺生丸は地に着き、まずその匂いに顔をしかめた。
りんに少し、墓土の匂いが移っている。
原因など、考えなくともわかる。

 

「・・・り、」


己を見上げて首を傾げるりんを見て、やめた。
土の塊である死人がりんに与えるものなど、高が知れている。

殺生丸はそのままきびすを返し、歩を進めた。
殺生丸の続く言葉を対して気にも留めず、りんと邪見もその後についた。

 

それから再びその女の存在を意識したのは、すでに女がこの世を去るときだった。

 

 

 

 

 

 

 


桔梗は先ほど触れたあどけない頬のぬくもりをいつまでも指先に感じていた。


皮肉なものだ。
この手に温度など無いのに。
他人の温度はいとも容易く己に残る。

 

 

「・・・余計なことを」

 

強く生きろなど、今をひたすら生きる幼子に諭すなど馬鹿げている。

 


死んだ魚の腹のように白い指を口先に強く押し当てた。
堅い歯は簡単にその指に傷をつけた。


血は、滲まない。

 


五〇年前、愛しき者と己をあれほど真っ赤に染めたものが、今は恋しくてたまらなかった。

 

 

 

「・・・犬夜叉・・・」

 

 


目を閉じると、残像のように映像が流れていく。
それは瞼の裏に刻まれたように消えてはくれない。

 

森の木々がざわめく。
緑に鮮血が走る。
頭の頂点からつま先まで、黒で満たされてゆく───憎しみだ。
弓がしなった。

 

 

 

 

目じりを押さえると、あっけなく記憶は散った。


もう過ぎたこと。

 

桔梗は前を見据え、地を踏みしめる。

 


─────強くなければ。
せめて、自分自身のためにも。


 






殺りん+桔梗に見せかけて、殺りんより桔梗お姉さまが書きたかったというだけの代物←

いいですね、お題は。

進めやすい・・・

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はじまりの場所



夢追い彷徨うこの時勢。
信じられるものなど、無くて。

 

 

 

 

 

 

 

地に描くものはすべて、愛しき家族。
再び相見ることは叶わないからせめてと、少女はくすんだ地面に人を描く。

 


突如黒い影が少女の手と絵を覆った。

 

鈍痛が手から腕、右半分を駆け抜ける。
同時に左頬にも衝撃が走った。
抗うこともできずに、そのまま反対側に倒れた。


上空から矢のように降り注ぐ声は人のものだとわかるけれど、まるで異国の言葉のように脳内を通り抜けていく。


わからないから答えないのだ。
話せないから話さないのだ。

 

少女のその表情に、村人はさらに苛立ちを沸きあがらせる。

貧しさは村人の表面を粗く削った。

 

どうして、と思う。

よい絹も食べ物も無くても、人を打とうと思ったことなど一度も無いのに。
どうしてこの人たちは。

 

 

息を切らした村人は、一蹴りを最後に背を向けた。

 

ゆっくりと起き上がり、左頬に手をやった。

じわじわと鉄の味が口内に広がる。
吐き出してしまうと、同時に目からも何かがこぼれそうで、唾液と共に飲み込んだ。

 

 

立ち上がると、身体の右側がひどく痛む。
地にひっぱられているようで上手く歩けないけれど、行かなければ。

 

両足を交互に動かせば、身体は前へと進んでくれる。
それだけで十分なのだと自分に言聞かせた。

 

 

 

 

村の出口にそそり立つ古木の幹にある穴に、そっと納めてあった山からの産物。


少女はそれを抱えて深く濃い山へと急ぐ。

 


今日もきっと、受け取ってはくれない。
見てもくれない。
それでもいい。



たとえ伸ばした手を振り払われても。


銀のひとは、とてもあたたかい気がするから。
 

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また逢える日を夢に見



─────どれくらい長い間、眠っていただろう。
ふと、自分が右の手のひらにしかと握り締めているものに気づいた。

 

・・・帯。


思わず口元が緩んだ。

そう、あの人はきっとりんを起こさぬようにと己の帯を解いて出て行ったのね。

 

近くまで抱き寄せて、顔を埋めた。
眩しく波のように押し寄せる、熱と慕情。

それでもその帯を、かつてのように力いっぱい抱きしめることなどできはしないのだと。
乾いた手の甲が言っていた。

 

 

 

 

 

 

 


りん、と小さな妖怪が襖を遠慮がちに開いた。


「邪見さま」


ゆっくりと体を起こすと、無理はするなと気遣いの視線を送ってくる。
そんな気遣いは必要ないのにと意地を張っていられるときは、とうに過ぎてしまった。


「粥なら食べれるじゃろう?ほら、今日のは松の実が入っておる」


白い湯気がもうもうとりんの顔を濡らし、膳からは上品な香りが届いた。


ゆるりゆるりと立ち上る蒸気を見つめるりんに、邪見は慌しく顔をうかがった。

「どうした、りん。食べたくないのか。気分が悪いのかっ」


はっとして、違うのと首を振った。
それからその膳を脇にずらし、布団からそっと全身を抜いて、改まって座りなおした。
そのまま前に手を着き、額を畳まで降ろした。

邪見が小さく息を呑む。

 

「───邪見さま。今までりんをありがとうございました」

 

頭を下げて礼を述べるりんに、邪見が言葉を詰まらせてのどを鳴らす音ばかりが響いた。

 

「りんが今までここにこうしていられたのも、邪見さまのおかげです。どうか、いつまでもご清祥で・・・」


「っ・・・な、何を言うかっ、りん!ほ、ほら、さっさと食わんかっ!粥が冷めてしまうぞっ」

 

早口にまくし立てた邪見に、はいと答えて粥の椀を手に取った。
すぐに背を向けた邪見は、数刻したら下げに来るからと言い残してそそくさと部屋を出てしまった。

りんはその粥を口に運ばず、邪見が閉めた襖の切れ目を見つめていた。
うっすらと映った小さな影と共に、洟をすする音もりんの耳に届いた。

 

 


粥に匙を差込み掬うと、とろりとした白がゆっくりと落ち、かぐわしい香りをますます広げる。

覚えておこう、と思った。

 

今まで考え少なに生きてきた分、全五感を使ってこのすべてを自分に焼き写そうと。

 

 

 

 

きっともうすぐ、りんは一人で眠りに就かなければならない。
それは自然の摂理で、生れ落ちたときから決まっていた必然のことで。
覚悟はあるのだから。人として。

 

それでもやっぱり寂しいから、りんに少しの希望をください。
眠り堕ちた先に、あなたと過ごす奇蹟があるのだと思わせてください。

 

 

また逢える日を夢に見て、永遠の道へと進みます。

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お題

明な


一  無色透明な世界を歩む

二  また逢える日を夢に見
 
三  今更そんな事言わないで

四  おとぎ話に憧れて

五  はじまりの場所
 
六  この思いを伝えられたなら

七  眠れぬ夜に別れを

八  歪んだ世界

九  現実を見たくないから目を逸らした

十  伸ばした手が、届かない


お題配布 knobracquer infist(ノブラッカインフィスト) さまより

拍手[12回]

それ以外の選択肢なんてはじめからなかった



華やかに咲き誇る桜が、かぐわしい香りを運んでくる。
縁側に腰掛けてその大木を見上げた。
時折吹く強い風がその花弁を散らし、りんの白い肌を彩る。
顔にかかった横髪を掻きあげて、息をついた。
それが思ったよりも重い暗さを含んでいて、思わず口元に手をやった。


憂鬱なんかじゃない。
怖いことなんかない。


そう言い聞かせるように、ゆっくりと深呼吸した。

 


「りん」


ささやかな足音と共に、りんの視界を銀が染める。


「用意ができた」

 

りんは静かに微笑んで、縁側から腰を上げた。

 

 

 

 

 


「お気をつけて」


恭しく頭を下げる従者たちを背に、殺生丸はりんを前に乗せて阿吽に跨った。
その足元は炎と土煙を巻き上げ、阿吽は一気に空へと舞い上がった。


暖かな陽気とはいえ、上空を阿吽が最速で駆けるために受ける風はどことなく冷たい。
りんは小さく首をすくめた。

 

「寒いか」

背後から伸びて白毛が綿のようにりんを包んだ。

「ううん、大丈夫。・・・久しぶりだね、殺生丸さまとこうやって・・・」


白毛に頬を寄せると、それは愛しげにりんの頬をするりと撫でる。

 


二人の眼下には、小さな村跡が迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


背の高い草が生い茂った草むらに阿吽を置いた。

以前とはまるで違う。
人が住んでいたとは思えないほど、そこでは自然の生命が育まれていた。


「・・・結局村の人はみんな・・・」

一面の草木を前にして、りんはその遠くを見た。
かつて人家であったらしい藁葺きの屋根も、鬱蒼とした雑草で埋め尽くされている。
足の踏み場もないほど、そこは草原と化していた。

もともと大きな里からは離れた村だ。
人が来なければ、誰も再び村を再興しようとはしない。
そのまま自然に飲まれてしまったらしい。


りんは草をかき分けかき分け、ある一所を目指した。
妖はその後ろを静かに辿る。

 


「この辺だと思うんだけど・・・あ、」


りんは捲れる着物の裾を押さえながら視線の先へと駆けた。
そこには、小さな石碑がひとつ。
それは石碑ともいえないほどに小さく、ただの石が置いてあるだけのようにも見えたが、りんはただ慈愛の眼差しをそこに注いだ。
たたずむりんの横に、殺生丸は静かに立ち止まった。


「・・・これか」


「・・・うん。・・・もう身寄りがなかったから、他の人たちと一緒に一度に火葬されて・・・骨もわからなかったからりんがここにしようって・・・」


変わらない口調で語る唇は、小さな体には収まりきらないほどのものを精一杯抑えるかのように小刻みに震えた。

 

「・・・何かあれば呼べ」


殺生丸はただ背を向けると、来た道を引き返してどこかへと消えた。
素っ気無い口調にある暖かな想いを、りんはわかっている。
少し微笑んで、黙ってうなずいた。

 

 

さて、とりんはその墓前にしゃがみこみ、周辺の草をむしった。
自然と根付いた雑草は深くその根を張り巡らしていて、案外強い。
適当に取り終わった頃には、少し汗ばむほどだった。

 


手を休め、あらためてその石を眺めた。


・・・何年ぶりだろう、ここに向かい合ったのは。
あのころは毎日ここに来ていた。
人前では泣かないと決めたから、ここは泣くことを唯一許された場所だった。
そっと石の表面をこすると、ざらついたそれがしっかりとりんの手になじんだ。

 

 

 

 

 

・・・おっとう、おっかあ、にいちゃん。
ただいま。


長い間来なくてごめんなさい。
それでも、りんはおっとうたちのことを忘れたことはなかったよ。
いつも思ってたし、見守ってくれてるんだって思ってたから。

 


あの日から、とても長い年月が経ちました。
もうこの村は村じゃなくなっていて、少しびっくり。
辛いこともあったけど、やっぱりみんなで過ごした村だから、少し悲しいかも。

いろんなことが変わってしまったんだね。

 

 

りんは今、殺生丸さまのお屋敷で暮らしています。
邪見さまも、たくさんの妖怪たちも一緒に。

もし、おっかあたちが今のりんを見てがっかりするようだったらごめんなさい。
人間の世界で、人間と暮らすりんを望んでいたなら、ごめんなさい。

それでもりんは恥じることなんて何もないと思っているし、後悔もしてない。
だからみんなもそうだと思いたいの。

 

 


・・・殺生丸さまは人ではないけど、だからどうとかはりんにはわかりません。
ただ一緒にいたいって思ったら、叶ってしまいました。
だからりんは今とても幸せです。
この気持ちを教えてくれたのも殺生丸さまだから、怖くなんかないと思うの。
お屋敷でも辛いことはたくさんあったし、これからもあると思うけど、頑張れない気がしないから、きっと大丈夫。

だからおっかあたちにはずっと見てて欲しい。
りんも必ずみんなのところに行くから、そのときまで待ってて欲しい。

 

 

 


きっとこれから辛いことがあったとき、ここに来たくなると思う。
だけど、もう逃げ場は作りたくないからここにはもう来ません。
りんはりんが信じた人と、その世界で生きていきます。

それでも、ずっとみんなの家族でいさせてください。

 

 

りんは明日、殺生丸さまの元へ嫁ぎます。

 

 

おっとう、おっかあ、にいちゃん─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気づけば伏せた目元から滴る涙が足元をぬらし、下草の緑が深みを増していた。
咄嗟に口元に手を当てて嗚咽をかみ殺した。
それでも手の間、指の隙間から水滴が滴り落ちては消える。

 


りんは捨ててしまったのだろうか。

本当は秤にかけて選びたくなんかなかった。

それでも、どうしても譲れなかった─────

 

 

 

 


草を踏みしめる音がりんの耳を打った。
足音の正体に気づいて、急いで顔を拭って着物の裾を払った。
勢いよく振り返って微笑んだ・・・つもりが、濡れた顔は涙の余韻で上手く笑ってはくれなかった。

「・・・へへ・・・ごめんなさい、おそ」

 

 


白い腕がりんの頭を抱え込むようして、その顔を己の着物に押し付けた。
愛しい匂いがりんに充満する。

 

 

「・・・急ぐことではない」

 

低い韻がりんの中へ沈んでいく。
それが底まで落ちたとき、何かが胸の奥で弾けた。

 

 

 

 

己の中で慟哭し続けるりんの涙をすべて吸い取るかのように、日が傾くまで殺生丸はその体を抱いていた。



 



妃嘩瑠さまへのキリリク作品です。
「りんと殺生丸結婚式当日」ということでしたが・・・
ごめんなさい;;
まだそんな二人を書くほどにまで私は熟していませんでした。
どんなに考えても陳腐なものにしかならず・・・
結局妥協して、前日というかたちでこじつけてしまいました。
せっかくのリクエストに答えられずにごめんなさい・・・
ちなみにタイトルも長くてすいません←
このようなものですが、よろしければお受け取りください。

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